内村鑑三著(鈴木範久訳)『代表的日本人』(岩波文庫)を読みました。日清戦争の始まった1894年に書かれた本で、日本の文化・思想を西欧社会に紹介するために英語で書かれました。当時、世界でベストセラーになったそうです。
同時期には岡倉天心『茶の本』、新渡戸稲造『武士道』が英語で書かれ、世界で読まれています。内村鑑三は新渡戸稲造と札幌農学校で同級生(2期生)でした。2人とも武士の子として生まれ、大学でクリスチャンになりますが、武士道の精神に強い影響を受けていたようです。
『代表的日本人』はアメリカのジョン・F・ケネディ大統領も読んでいたようです。ケネディ大統領が日本人記者から「日本人で一番尊敬する人は誰か」と質問された際に「上杉鷹山」と答えたという話を聞いたことがあります。その話を聞いた際、なぜ上杉鷹山を知っていたのか、とても疑問でした。本書に上杉鷹山が紹介されていることから調べてみると、ケネディ大統領は本書を読んで上杉鷹山を知っていたようです。
西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人という5人の生涯から、「わが国民の持つ長所―私どもにありがちな無批判な忠誠心や血なまぐさい愛国心とは別のもの―」を世界に伝えるために書かれました。
5人ともにとても質素な生活をしています。太くて強い信念という軸があり、ブレない点も共通しています。道徳を重んじた点を含め、内村鑑三が自身と重ね合わせたものだと思われます。日蓮上人については、迫害を受けながらも自分が信じた信仰を貫く姿勢に自分自身を重ねたのだと思います。
また、日蓮上人を除いた4人には「贈与」が一つのキーワードになっているように思えました。「贈与」という言葉は出てきませんが、自然や家臣、農民などに対する贈与を当然のことのように行っています。
本書を読んで個人的に最も惹かれた人物は西郷隆盛でした。子供のように純粋無垢で「情」が深い、人間的な魅力に溢れていました。その逸話の数々にはホッコリとしてしまいました。
内村鑑三はキリスト教徒でありながら、キリスト教よりも優れた道徳感を持った日本人がいたことを世界に伝えたかったのだと思います。ドイツ語訳版後記の中で武士道は未完成なものとしながら「武士道もしくは日本の道徳は、キリスト教そのものより高く優れている」と記しています。
中江藤樹は本書で初めて知りましたし、他の4人についても知らないことが多く、勘違いしていた点が多々ありました。日本人として誇りを取り戻すことが出来る素晴らしい良書でした。