対談本『網野善彦を継ぐ。』(中沢新一、赤坂憲雄)を読みました。
2004年に亡くなった歴史学者・網野善彦氏とその史学について、中沢新一氏と赤坂憲雄氏の至極の対談です。対談は網野氏が亡くなった2か月後に行われたようです。
網野氏は『日本の歴史をよみなおす』で知りました。通説的な歴史を読み直す内容はかなり刺激的でした。『アースダイバー』の中沢氏、『東北学』の赤坂氏の対談であり、とても興味深いものでした。
目次から
1 歴史の欲望を読み解く網野史学
2 北へ、南へ、朝鮮半島へ広がる問題意識
3 「天皇」という巨大な問題
4 「東の歴史家」の意味
5 何を受け継いでいくのか
表紙の地図が特徴的ですが、富山県発行の地図「環日本海諸国図」だそうです。網野氏の歴史観を表現するために採用されたのだと思います。こうしてみると、大陸が日本に如何に近く、島国という意識さえ遠退いてしまいそうです。
富山県のホームページには以下のように「環日本海諸国図」の説明があります。
「見慣れた世界地図を回転させたユニークな発想の地図です。」
「本県が進めている環日本海交流拠点作りを国内にPRするとともに、中国、ロシア等の対岸諸国に対し日本の重心が富山県沖の日本海にあることを強調するため、従来の視点を変えて北と南を逆さにし、大陸から日本を見た地図としています。」
網野氏が日本の歴史学にもたらした新しい潮流、民俗学と歴史学を結びつけた「新しい人間の学問」のサイクルが終わってしまったという危機感から対談が始まります。網野氏は歴史学会では孤立した存在で、亡くなったあとに忘れられていくだろうという強い危機感です。
網野氏の歴史観は、大きな「欲望」に貫かれ、強烈な「否定性」を突き付けてくると中沢氏は語っていました。「欲望」と「否定性」は以下が象徴的です。
"実証主義的歴史学は、文字の表面を読んでいくんですね。ところが網野さんは、おそらくこういうことを考えていたんだと思います。つまり、「歴史はつねに自分が語りたかったことを語り損なう」と。そういう視点に立っていると思うんです。だから、古文書を前にしても、「ここには何か語り損なわれている欲望が隠されている」と、そして欲望を掴み出す解釈を実践した。 " - 36ページ
そうした歴史観から、西と東、農業民的と非農業民、定住と非定住、天皇制といった網野史学の核となる部分が生まれてきました。
2人の対談を通じて、網野氏の歴史観や歴史学について理解が深まりました。また、2人の情熱は同じ方向を向きながらも、受け継いでいくものに違いがあったように思えます。中沢氏は網野氏の歴史観(仕事への取り組方)を、赤坂氏は網野史学そのものを受け継ごうとしているようです。この違いがあるからこそ、深い対談になったのだと思います。