高橋克彦著『東北・蝦夷の魂』を読みました。
『東北・蝦夷の魂』(高橋克彦)



音楽CDは昔からベストアルバムが好きでした。1枚でお得感があるからです。この本は高橋克彦氏の東北の歴史小説を1冊で味わえる本だと思います。

蝦夷(えみし)を主人公とした『風の陣』、『火怨』、『炎立つ』、『天を衝く』の4作を軸にしたインタビューの書き起こしです。膨大な知識と歴史観を各小説の引用と兼ね合わせながら紹介しています。

序章で高橋氏自身が東北へのコンプレックスを持っていたことを明かしています。学校教育で学ぶ『正史』には東北の歴史が出てこない、出てきても中央から見た反乱の歴史なのです。


京都の山奥で道に迷った際に出会った一人暮らしのお婆さんの言葉で、故郷への思いを取り戻したそうです。そのお婆さんは土地の歴史に誇りを持って、一人でも暮らしていたのです。

"東北は阿弖流為、前九年・後三年合戦、平泉滅亡、奥州仕置、戊辰戦争とたびたび大規模な戦に巻き込まれたため、歴史をズタズタに書き換えられ、棄てられてしまっている。それでも東北の人たちは逞しく生きてきた。その事実を子供時代に知ることが、どれほど大切か。特に中学・高校生の頃、故郷への思いや誇りを胸に刻み込んでほしい。それが必ず心の支えになっていく。"-P16

阿弖流為 vs 坂上田村麻呂、安倍貞任・藤原経清 vs 源頼義、藤原泰衡 vs 源頼朝、九戸政実 vs 豊臣秀吉、奥羽越列藩同盟 vs 明治新政府と5度の中央の都合による理不尽な侵略戦争に敗れたのが東北歴史です。その都度、郷里を守ろうとしたリーダーが和の心を持って戦って来たのです。

東北人の気質として「相手の気持ちをまず考えてしまう」ことを挙げていました。侵略を受けても相手のことを分かろうとするのだとしています。郷里のことを思い、相手のことまでも考えて、常に敗れてきた歴史があります。そのことは震災で被災した人々の姿にも現われていました。

蝦夷の魂、すなわち和の心で日本や世界の未来を拓いて行けるとする力強い言葉が感動的でした。

高橋氏独特の解釈もあると思いますが、日本神話からの歴史観がとても参考になりました。東北(岩手)の歴史を俯瞰的に解釈できる本としても良いものでした。