武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

筆者を知ったのはNHKの古地図で巡る龍馬の旅 (趣味工房シリーズ NHK直伝和の極意)です。この本を知ったのはNHKの「爆笑問題のニッポンの教養」(「江戸時代のTwitter」編)でした。古文書を読み解き、歴史の真実に迫る情熱にとても好感が持てました。

この本は加賀藩士である猪山家の家計簿や書簡、日記をもとに幕末から明治にかけての激動の時代を生き抜いた武士の実態に迫るというものです。以前から武士の家計簿を探していた筆者が猪山家の家計簿に出会い、解読作業を始めます。筆者の興奮が伝わってきて、一気に読んでしまいました。

江戸時代の武士の生活や家計、家族のつながりなどを家計簿を通して紐解いていきます。当時の武士は家計が火の車だったことは意外でした。出世するほどに江戸詰による経費や交際費が嵩むのです。それは武士の給与が家柄や先祖の功績によって決められていたことに由縁します。(東大の赤門は加賀藩主と将軍家姫君との婚礼の際に建てられ、猪山家が携わっています)

明治維新という大変革の時代で武士がどうなったのかは歴史の表舞台には出てきません。官職に付けた者はごく一握りでした。

明治政府は「家禄奉還」という、今でいえば「早期退職制度」のようなリストラを実施します。正に多くの武士にとっては天と地がひっくり返ったようなものです。

猪山家は加賀藩で御算用者(会計、算術のプロ)として大出世を果たしており、明治政府においても海軍に登用されました。官職についた者はかなりの収入があり、猪山家は生活に困窮することはなかったのです。

明治維新の激動の中で猪山家は会計や算術のプロとして生きる道が用意されていました。このことを通じて、長けた技術や技能を身につけること、教育の大切さを知ることが出来ます。


≪この本で気になったことの覚書≫
「仙台藩ものがたり」(河北新報社)によると、仙台藩では藩士に知行地を直接与える制度を取っており、このような藩は少ないということでした。仙台藩の繁栄は知行地を与えることで新田開発が進んだことが貢献しています。その反面、幕末の新しい時代変革に付いて行けなかった要因ともなりました。
仙台藩ものがたり
仙台藩ものがたり
このことに関連して、筆者が余談としていた第1章の「なぜ明治政府は武士の領主権を廃止できたか」という項に注目しました。武士が在郷して領地をしっかり経営していたのは九州西南や仙台藩などが代表的だったそうです。大部分の藩では領民の顔も領地を見ることもなく知行石高に応じて年貢を受け取る制度「蔵米知行」が確立していたそうです。『現実の土地から切り離された領主権は弱い』ものであり比較的容易に解体できたのではないかというものでした。
武士の領主権が現実の土地と結びついていた鹿児島藩などは西南戦争などの士族反乱になったというものでした。