子供たちを連れて図書館に行くと、向田邦子コーナーが設置してありました。後から調べると、今年で没後30年だと知りました。1981年に台湾旅行中に飛行機事故により、51歳で亡くなったのです。
向田邦子コーナーで爆笑問題の太田光さんの本を見つけました。
向田邦子の陽射し


私は移動中にポッドキャストを聞くことにしています。聞いている中で唯一のバラエティがTBSラジオの「爆笑問題カーボーイ」でした。この番組、とても面白く、気晴らしには最高なのです。

爆笑問題の太田さんが番組の中で、向田邦子のエッセイなどの話をよくしていました。かなりの読書家で知られる太田さんです。番組を聞いていると、向田邦子が大好きだということがよく分かります。太田さんに最も影響を与えた作家が向田邦子だと言えるのではないでしょうか。


図書館で「向田邦子の陽射し」を見つけ、太田さんが向田邦子を好きな理由を知りたいと思い、手に取りました。


「向田邦子の陽射し」では、向田邦子本人や作品に対する太田さんの思いが熱く語られています。太田さんは悩んだときなどに「向田さんならどうみるだろう?どうするだろう?」と考えるそうです。太田さんの思考の一部(ときには大部分)は向田邦子なのです。

この本には、短編小説やエッセイ、脚本の一部が「太田光が選ぶベスト」として集録されています。ここに収録された作品を読むだけで、向田邦子にはまってしまいました。自分で想像しなくても、自分の目の前に情景が現れる描写が凄いです。人間の深い部分を直接的に見せるのではなく、描写により見せられるということに圧倒されました。


太田さんが大好きな小説やエッセイ、脚本について、独自の感性で捉える書評は刺激的です。その分、その書評に囚われて作品を読んでしまうという弊害があるかもしれません。向田邦子初心者の私にとっては作品の奥深さを知ることにつながりました。

(集録されている作品を先に読んで、後から太田さんの書評などを読む方法もあると思います。そうすべきでした。)


太田さんが言っていることで最も腑に落ちたのが、作品には「日常の残酷さ、滑稽さ、無邪気だから怖いところ、ちょっとしたいやらしさ」がちりばめられているということです。日常生活での家族や夫婦、友人間での残酷さや滑稽さなど、見事に作品にちりばめられているのです。収録作品を読んでいて、ゾクッとする部分が多くありました。ある意味、忠実に現実をとらえているのかもしれません。


向田作品は日常の中にある"気付いているけど、気付かないようにしている(無意識にも)"部分を描いているのだと思います。


人間の滑稽さに関して太田さんは次のように言っています。

"そんなやつらだけれど、それがいとおしいじゃないかというメッセージがある。すると、観ているほうはほっとするんです。自分は愚かだ、自分はだめだと思っていて、仕事もうまくいかないし、人をひとり幸せにさせることもできないし、もうちょっとましな人間になりたいと、みんなどこかでそう思いながら生きているわけですよ。でも、人間というのは完全じゃない、うまくいかない。でも、それでいいんだよ、と言ってくれる視点があるから、観終わったときに、俺はまだこれからも生きていいていいんだな、と思えるんです。" (P172)

あとがきで向田さんを太陽とまで表現しています。そこまで言える作家との出会いがある太田さんを羨ましく思います。