入山章栄著「世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア」(英治出版)を読みました。
「ドラッカーなんて誰も読まない!?」、「ポーターはもう通用しない!?」、「米国ビジネススクールで活躍する日本人の若手経営学者が、世界レベルのビジネス研究の最前線をわかりやすく紹介。本場の経営学は、こんなにエキサイティングだったのか!」という本書の帯だけでも興味が惹かれました。
難しい経営理論や経営分析は省き、本質的な考えや興味深い話だけを紹介したそうです。とても読みやすく、意外に面白くて最後まで楽しんで読むことが出来ました。読む前は、難しいことばかりで理解できないだろうなとも覚悟していました。
アメリカのビジネススクールの経営学者たちは企業経営を科学的な方法で分析しているそうです。筆者は「誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言であっても科学ではないのです」と言っています。科学的な分析がなされたものではないので、アメリカの経営学者たちはドラッカーに興味を持たないのです。
経営学には教科書がなく、多くの論文から体系的なものを学ぶそうです。まだ歴史が浅い学問であり、大げさに言えば日夜論争が繰り返されており、学問体系を構築する過程の苦しみといったところでしょうか?その様な経営学の最前線を優しく紹介したのが本書です。
第4章から第15章で紹介している 「世界の経営学の知のフロンティア」では、今まさに議論されている研究対象を紹介しています。非常に好奇心をそそる内容でした。
特に印象に残ったのは第10章の「日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか」です。国民性を指数化して、国と国の国民性の「距離」を示した表は面白いものでした。表に載っている国では日本にはポーランド、イタリア、メキシコが近い国になります。これは意外な結果です。日本人が思ったほど集団主義ではないことも意外です。
個人主義、集団主義の研究では北海道大学の社会心理学者である山岸俊男名誉教授の研究が生かされているようです。
第5章の「組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか」においてWho knows whatという概念は分かっているようで浸透していないのが実情ではないでしょうか。誰が何を知っているかを情報共有することが効率的であるということです。
"ビジネス書などでよく「情報の共有化」という言葉を見かけますが、それだけを聞くとあたかも組織の全員が同じ情報を持っていなければならない、と思ってしまいがちです。しかし、ここまで議論してきたように、組織全員が同じ知識を共有することは非効率であり、むしろ大事なことは「知のインデックスカード」を組織のメンバーが正確に把握することであると考えられます。"ー 101ページ
イノベーションやソーシャル、統計分析に頼りすぎた課題など、非常に興味深く面白い内容が多く含まれていました。日頃、経営学に触れることはありませんが、経営学のさわりだけではあっても好奇心の琴線に触れるものでした。