藤原正彦著「名著講義」(文藝春秋)を読みました。
藤原正彦著「名著講義」(文藝春秋)


お茶の水女子大学の名物ゼミ、「読書ゼミ」を収録したのが本書です。2008年度のゼミで、藤原先生が退官するまで10数年続いたゼミの最後の年を収めたのが本書となります。

学生の受講条件は
1.受講者は毎週1冊の文庫を読む根性があること
2.受講者は毎週1冊の文庫を買う財力があること
の2つで、受講者は新入生のみです。

指定の本を1週間で読了(『逝きし世の面影』はページ数が多いので途中まで)して、レポートを提出するそうです。ゼミの最後に次回の1冊が発表されるので、読む期間は必ず1週間となります。なかなかハードなゼミだと思います。

毎年、人気があって抽選で20名が選ばれるそうです。私なら挫折しそうですが、この年のゼミは11冊、全員が最後まで出席したようです。

笑いも涙もありますが、毎回気持ちいい程の白熱した議論が続きます。


この年は以下の11冊でした。
『武士道』(新渡戸稲造)
『余は如何にして基督信徒となりし乎』(内村鑑三)
『学問のすゝめ』(福沢諭吉)
『新版きけ わだつみのこえ』(日本戦没学生記念会編)
『逝きし世の面影』(渡辺京二)
『武家の女性』(山川菊栄)
『代表的日本人』(内村鑑三)
『山びこ学校』(無着成恭編)
『忘れられた日本人』(宮本常一)
『東京に暮す』(キャサリン・サンソム)
『福翁自伝』(福沢諭吉)

内村鑑三と福沢諭吉は2度登場します。私は今、『逝きし世の面影』を読んでいる途中ですが、他の本は読んだことはありませんでした...(^^ゞ
本書を読んで、どの本も読んでみたくなりました。とりあえず、札幌農学校の同級生である新渡戸稲造の『武士道』、内村鑑三の『代表的日本人』を購入しました。



藤原先生が読書をするうえで重要だと述べている点は、現代の感覚や慣習、現在の自分を基準として判断しないということです。当時の時代背景などを理解すれば、著者の言いたいことを正しく理解できるということです。

"その時代やその土地の思想信条、支配的な慣習、人々が生活する雰囲気、まずそれらを理解し配慮した上で内容について言及していくことが必要なのです。現在の自分を基準に考えてはいけないということです。 "ー 143ページ



藤原先生は指定した本を通じて教えたいことは一貫しているようです。本当の意味での愛国心、本来の日本らしさ、自由による弊害、自由競争原理主義への批判、、戦後教育の問題点、考えることの大切さなどを教えるために本を選び、議論をしているのだと思います。

その中でも自由への疑問を何度も投げかけているのが印象的です。自由は一部の裕福な層のためにあり、一見聞こえのいい「自由」という言葉に騙され、下層の者は更に貧しくなるというのが藤原先生の一つの主張だと思います。

"世界中の人々は「自由」が大好きですから、自由と自己責任を柱として市場原理主義にあっという間に毒されてしまったのです。しかし自由とはそんなに素晴らしいものですか。根本的な問題は、自由を与えても、きちんとした選択をできる人が極めて少ないということです。 "ー 204ページ



この本の面白さは女子大生が真摯で率直な意見を先生にぶつけるところだと思います。大学1年生の女性が、本当に生き生きとゼミを受けていることが伝わってきます。

彼女たちは本を熟読して、自分で咀嚼して考えることを身に着けているようです。戦後の言論を左右した思想についてもしがらみがなく、素直に良いものは良いと捉えるのが現代の若者なのです。事実、彼女たちの意見はまっすぐで、とても気持ちのいいものでした。